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賃料減額請求と契約解除

(東京地方裁判所平成6年1020日判決・判例時報155961頁)

 

《事件のあらまし》

 X会社(この事件の原告)は、Y(この事件の被告)に対し、平成3年3月1日、本件建物(45.76 坪)を賃料1カ月坪当り38,000円(1,738,880 円)、共益費同4,000 円(183,040 円)、期間2年の約定で賃貸した。

 X会社は、平成4年末ころ、平成5年3月1日以降の賃料を坪当り35,000円に減額し、共益費は4,200 円に増額する旨申入れをした。

 これに対し、Yは、同日以降の賃料は坪当り15,000円、共益費は3,500 円が相当であるとの申し出をして、以後、Xの請求にもかかわらず、その金額で賃料及び共益費の支払を続けた。

 更に、Yは、平成6年1月1日以降の賃料は坪当り1万円に減額するとして、以後はその額で支払を続けた。

 そこで、X会社は、賃料不払及び信頼関係の破壊を理由として、賃貸借契約を解除し、建物明渡と未払賃料の支払を請求して本訴を提起した。

 

《裁判所の判断》

 Yの減額、改定の申し出は賃料の減額請求と解されるが、減額請求を受けた賃貸人は、賃貸人において「相当と認める額」を請求し得るのであり(借地借家法32条3項)、「相当と認める額」とは、社会通念上著しく合理性を欠かない限り賃貸人が主観的に相当と判断した額をいうのであって、特段の事情のない限り、従前の賃料額であれば合理性を有するものと解される。本件のX会社は、平成5年3月以降、従前の賃料額より減額した額(35,000円)を請求しているのであるから、賃貸人が「相当と認める額」の適法な請求である。

 そうすると、Yの未払賃料額(X会社の請求額坪当り35,000円とYの支払った15,000円ないし1万円との差額)は、1,144 万円にも達し、X会社のなした契約解除は有効である。よって、Yに対し本件建物の明渡と未払賃料(1,144 万円)等の支払を命ずる。

 なお、共益費は、当初の合意された金額(坪当り4,000 円)が新たな合意が成立するまで当事者を拘束すると解する。

 

《若千のコメント》

(1)減額請求をした賃借人が支払うべき賃料額

 借地借家法32条3項は、「建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。」と定めている。

 従って、減額請求を受けた賃貸人は、自己が「相当と認める額」の支払を請求でき、賃借人はその請求に応じて支払わなかったとすれば、債務不履行の責任を生ずることとなる。

 「相当と認める額」とは賃貸人が主観的に相当と認める額であるが、従前賃料額を超えることができないのは当然であるから(それには増額請求が必要である)、通常は、従前賃料額ないしそれを若干下回る額(減額請求された額を相当と考えるなら減額に応じればよいから、従前賃料額と減額賃料額の間)ということになろう。

 増額請求の場合は、賃料を支払う賃借人が相当と認める額を支払えば足りるものとされており(借地借家法32条2項)、この場合も、賃借人が相当と認める額とは、従前賃料額ないしそれを上回る金額ということになるから、借地借家法は、増減額のいずれの場合も、争いが決着するまでは従前(現行)賃料額ないしそれに準ずる額の支払が継続することもやむを得ないとしていることになろう。

 しかし、減額が正当とする裁判が確定したときは、賃貸人が既に支払を受けた金額が正当とされた賃料額を超えるときは、賃貸人はその超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付して返還しなければならない(32条3項ただし書)

 不況下の経済情勢、近隣賃料の動向などから減額請求に理由があるとみえるときに漫然と従前賃料額に固執した場合、超価額の返還が問題となることもあろう。その場合、現在の金利水準からすると、年1割の利息は高負担であり、態度決定について圧力になるとも言えよう(法律としては、現在の金利水準などは予定外であり、民事法定利率年5分の2倍の割合にしているにすぎないのだが──)。

(2)本件における賃借人の対応

 賃料の増減請求について借地借家法が上記のような規定を設けているのは、増減請求が賃借人の対応如何で債務不履行の状態を招くことを回避させるためである(後記(4)参照)。

 本件では、このような規定があるにもかかわらず、賃借人は減額賃料額(坪当り1万5,000 円ないし1万円)しか支払わず、賃貸人が従前賃料額(3万8,000 円)より減額した金額(3万5,000 円)をも支払わず、その差額が1,144 万円にも達したというのであるから、賃料不払(債務不履行)による契約解除が認められたのも当然であろう。

 本件の賃借人は、前記のような法律の規定を理解していなかったのか、意地になったのかわからないが、このような事態になるのは珍しいことと言えよう。もっとも、他にも借地の事例だが、同様なケースで契約解除が認められた例がある(東京地判平成元年3月6日判時134371頁)。

(3)この判決の疑問点

 この事件では、建物明渡とともに賃貸人の請求額と賃借人の支払額との差額(前記1,144 万円)の支払が未払賃料として請求され、判決ではこれを認めているが、判決では賃借人から減額請求がなされたと認めているのであるから、適正賃料額は幾らであるか(それと賃借人の支払額の差が未払賃料となる)が認定されなければならない筈である。借地借家法32条3項は、賃借人が相当と認める額の支払を請求できるとはしているが、それが適正賃料だというわけではないからである。

従って、適正賃料額の認定、判断をせず、原告の請求金額をそのまま認容してしまったのは判決の誤りではなかろうか。

のみならず、実際はともかく、理論的には賃借人が減額して支払った金額が適正賃料額であったということも想定できないではない。そのような場合を考えると、未払賃料は存在しなかったことになるのであって、賃貸借契約の解除を認めてよいかどうかも問題となるであろう。増額請求の場合には考えられない問題であり、解除を認めないとすれば、債務不履行がなかったと考えるのか、未だ信頼関係を破壊しないと構成するのかも問題となろう。

なお、共益費については、この判決は当事者の合意に拘束されるとしているので、賃料のような増減請求を認めないことになる。共益費は賃料とは区別されるという考え方もあるので、この点は一つの見解であるが、一方では共益費にも賃料の増減請求権の規定が類推適用されるという考え方もある(判決例としては、東京地判平成元年1110日判時136185頁)ことを指摘しておきたい。

(4)増額請求に関する最近の最高裁判例

本件とは直接関係しないが、最近、増額請求について、最高裁で注目すべき判決がなされたので、ここで紹介しておきたい(最高裁第2小法廷判決平成8年7月12日判時157877頁)。

 判旨は次のとおりである。

 「賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときには、従前の賃料額と同額を支払っても、借地法12条2項にいう相当と認める地代または借賃を支払ったことにはならないと解すべきである。」

 「賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときには、賃借人が右の額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行をしたということはできない。」

 この事件は旧借地法の適用事件だが、旧借地法12条2項は、借地借家法11条2項、32条2項と同様の規定である。

 これらの各条項の言う「相当と認める額」とは賃借人が主観的に相当と認める額のことであるから、主観的に相当と認める額を支払えばそれを以て足りる筈であって、最高裁判決がその後段で、「主観的に相当と認めていたとしても、・・・・債務の本旨に従った履行をしたということはできない。」と言うのはわかりにくい表現である。しかし、前段の判示において、「賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないとき」には、相当と認める賃料を支払ったことにはならないとした上での判示であるから、公租公課の額を下回ることを知っていたときは、端的に言えば、「主観的に相当と認めていた」とは言えない、従って債務不履行になる、という趣旨であろうか。

 確かに、賃借人が公租公課をも下回ることを知っていたとすれば、その金額を相当と認めていたとは、特段の事情のない限り、言えないであろうから、最高裁判決は首肯できるように思われる。

 しかし、旧借地法12条2項・3項、旧借家法7条2項・3項は、昭和41年の改正で追加され、それが新法でも受け継がれているものである。

 この条項追加以前は、賃料の増減請求権が形成権と考えられることから、裁判による賃料の確定が増減請求の時に遡及することとなって、裁判で確定された金額より低い金額を支払っていた賃借人は債務不履行の状態であったことになり、契約解除事由ともなる(言い換えれば、賃料の額の争いであったものが、賃貸借終了、明渡請求の争いとなる)ことがあり得た。

 そのような事態を避けるために前記各条項が設けられたのであり、今回の最高裁判決のように「主観的に相当と認めていないとき」(公租公課の額を下回ることを知っていたとき)があり得ることを正面から認めるのは、再び、昭和41年改正前の状態が、限定的な範囲ではあっても、生ずることを認めるようでもある。現に、この最高裁判決の事案が契約解除を主張して土地の明渡を求めたケースであり、明渡請求を棄却した原判決が破棄されているのも気になるところである。

 この最高裁判例は、今後論議を呼ぶものと思われる。

 
 
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