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賃料及び保証金の減額請求と更新料の支払義務

(東京地方裁判所平成8年7月16日判決・判例時報1604号119頁)

《事件のあらまし》

 X株式会社(賃借人、この事件の原告)は、昭和63年5月23日、Y有眼会社(賃貸人、この事件の被告)から、東京都千代田区内の木造2階建店舗(床面積各階36.36平方メートル)を次のような約定で賃借した。

1. 賃料月額65万円、昭和64年5月23日以降は月額110万円

2. 賃貸借期間1

3. 用途書籍、ビデオテープ販売等

4. 保証金1億円とし、内金6000万円は契約締結時に、残金4000万円は昭和64年5月22日限り支払う。保証金は明渡しの12か月後に賃料10か月分を償却して返還する。

5. 更新料賃貸借が更新された時は更新料として賃料2か月分を支払う。

 X会社はY会社に契約時に保証金6000万円を支払ったが、平成元年5月、XY間において、保証金残金のうち2000万円の支払期限を平成2年5月まで猶予する合意が成立し、X会社は2000万円のみを支払った。これにより、X会社が支払った保証金は8000万円となつた。

 X会社は、平成7年1月、Y会社に対し、賃料の月額は保証金を8000万円も支払っていることからすると高額であること、バブル経済の崩壊によってX会社の売上げが落ち込んでいること、近隣で同種店舗が営業を始めていること、地価が低下し近隣賃料相場も大きく低下していること等の理由から、賃料及び保証金の減額請求をし、同年3月には、賃料を月額65万円に、保証金を4000万円に減額してほしい旨の書面を送付した。

 しかし、Y会社はこれに応じないため、X会社は、賃料及び保証金が上記の減額された金額であることの確認と、未払いの更新料1540万円(7年分、賃料の14か月分)につき、更新料の支払約定はあるものの本件の賃貸借は法定更新されているものであり、その場合には更新料の支払義務はないとして、更新料支払債務の不存在確認を求めて訴訟を提起した。

 Y会社は、本件賃貸借契約には、賃料額は東京都区部の民営家賃等の指数に比例して増減する旨の合意がある、保証金及び更新料は当事者の合意によって定めたものである等として、X会社の主張を争った。

《裁判所の判断》

(1)賃料について

 賃料が月額110万円と定められたのは、契約締結時に、未払いの保証金4000万円に相応する金利を含めたもので、保証金が全額支払われたときは当初の月額65万円に戻すとの合意があったものと認められる。

 鑑定人の鑑定結果によれば、平成7年1月時点における正常賃料は、保証金を2200万円、更新料を期間3年毎に賃料2か月分とした場合、積算法による月額坪当り3万5300円、事例比較法による月額坪当り3万3500円のほぼ仲値にあたる坪当り3万4500円、総額759000円であり、これから保証金の運用益(年5パーセント)及び更新料、償却額を控除した正常支払賃料は月額63万2000円(坪当り2万8736)となること、事例比較法による継続賃料は、月額57万4200円(坪当り2万6100円)ないし66万4400円(同3万0200円)であること等が認められる。

 以上の事実及び諸事情を考慮すると、月額110万円の賃料は不相当になったというべきであり、本件店舗の平成7年1月28日以降の賃料は当初1年間の約定の月額65万円に未払保証金2000万円の運用益(5パーセント)を加えた月額73万円と算定するのが相当である。

 また、Y会社が主張する賃料は東京都区部の民営家賃等の指数に比例して増減する旨の合意の存在は、本件減額請求の妨げになるものではない。

(2) 保証金について

 保証金は、賃料とは異なり賃貸借契約の不可欠な要素ではなく、当事者の合意によって成立し、その額が定められるべきものであって、一方的意思表示により増減を認めるべき根拠はない。また、保証金は賃貸借契約成立の際、継続的契約を前提として担保のために預託されるものであるが、預託した保証金の額が将来のある時点で高額と考えられるようになったとしても、それによって契約の継続に支障をきたすとは考えられない。このように、保証金はその存在意義において賃料とは性格を異にするから、借地借家法32条を類推適用することはできず、保証金の減額請求は認められない。

(3) 更新料について

 本件賃貸借契約における更新料の合意は、保証金残額4000万円が約定の期限に支払われ、その後賃料月額65万円とする賃貸借契約が更新された場合に支払われるべき更新料についてのものというべきである。

 ところが、残金4000万円のうち2000万円について支払期限が猶予され、その後も2000万円について支払が未了であったため、X会社は月額110万円の賃料支払を続けていたものである。

 以上からすると、本件賃貸借契約は、新たな更新の合意がなされず、賃料月額110万円とする暫定的な契約内容のまま存続していたものであるから、更新料についての前記合意は、このような契約関係についてまで定めたものと解することはできない。したがってX会社に更新料を支払うべき義務は認められない。

《若干のコメント》

(1) 賃料及び保証金の減額

 本件の賃料(月額110万円)と保証金は、鑑定結果からみても相当高額なようである。判決では、鑑定結果を参考としながら、当事者間の当初の合意賃料額(月額65万円)を基礎にして、これに未払保証金領の運用益(2000万円に対する年5パーセント)を加算した金額を適正賃料としている。これについては、既に預託ずみの保証金(8000万円)の運用益はどのように考慮されたのか、最近における一般的疑問だが、このような低金利時代にあって保証金の運用益を年5パーセントで算定してよいか等の問題がないではないものの、判決の認定した金額はほぼ妥当なところだろうか。

 本件の賃貸借契約においても、賃料の増減額の基準ないし自動改定の特約とみられる合意がなされているが、この判決では、このような合意の存在は減額請求の妨げにならないとして一蹴されている。特約があっても、「契約の条件にかかわらず」減額請求ができる(借地借家法32条1)との趣旨と考えてよいであろう。同様の趣旨のものに、東京地判平成7年1月23日判時157号113頁く「いしずえ」90号本稿(1)),同平成7年1月24日判タ890号250頁、同平成8年10月28日金融法務1473号39頁がある。

 保証金については減額請求が認められていないが、この判決がいうとおり、賃料と保証金とは、その性質、目的が全く異なるから、賃料増減請求権の規定を類推して減額請求が認められるというものではないのは当然だろう。ただ、敷金や保証金の額が「賃料のOか月分」というように明示されていてその賃料が減額された場合については、若干の疑問がないでもない。しかし、このような場合でも、当事者の合意に基づいて既に授受され、債権担保の機能も有する敷金や保証金の一部返還を認めるというのは疑問であろう。なお、敷金の減額を認めなかった例として、東京地判平成7年10月30日判タ898号242頁(「いしずえ」91号本稿())がある。

(2) 更新料の支払義務

 賃貸借契約が期間満了により更新したときに一定の更新料を支払う旨の特約がなされることがあり、このような特約は、賃貸借が合意により更新される場合には適用されるものの、法定更新の場合にも適用されて更新料支払義務が生ずるのか否かについて、判決例は見解が分かれている。

 更新料の性質上合意更新と法定更新を区別すべき理由がない、特約の趣旨から法定更新の場合も含まれる等の理由で肯定する例もあるが(比較的近時の例として、東京地判平成2年11月30日判時1395号97頁、同平成4年1月23日判時1440号107頁、同平成4年9月25日判タ825号258頁、同平成5年8月25目利時1502号126頁、同平成9年6月5日判タ967号164頁など)、法定更新を認める借地借家法の趣旨等から否定するものもある(同じく、東京地判平成2年7月30日判時1385号75頁、同平成359日判時1407号80頁、同平成4年1月8日判時1440号107頁、同平成9年1月28日判タ942号146頁など)

 更新料支払の特約をするような賃貸借においては、期間満了時に更新拒絶の正当事由を具備することは少ないだろうし、当事者も予想しないことであるから、通常の契約当事者の意思としては当然に法定更新があり得ることを予定して更新料の支払を約するのであり、更新料の支払が合意更新の場合に限られるとすれば.、更新料支払の特約はほとんど意味を失うことになると思われる。したがって、法定更新の場合にも支払義務が生ずると解すべきであろう。

 なお、法定更新の場合にも更新料支払義務を認めたうえ、その不払を理由とする賃貸借契約の解除を認めた事例もある(前掲東京地判平成5年8月25日。なお、借地についてその更新料不払を原因とする賃貸借契約の解除を認めたものに最判昭和59年4月20日民集38巻6号610頁がある)

 本件の判決は、直接この問題には触れずに、規在継続している契約が暫定的なものであることを理由に更新料支払の合意が適用されないものとしている。本件の更新料は賃貸借期間が1年であるうえ、暫定的とされる賃料額が高額であるため、相当高額なものとなる。更新料支払の特約が有効で、法定更新の場合にも適用があるといっても、更新料の金額ざが賃料との対比から高額である場合には特約どおりの支払義務を認めることは疑問であるから、実質的にみて、この判決の判断も妥当なところと思う

 
 
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