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新築オフィスビルの原状回復の程度

東京高判平12.12.27判夕1095.176

澤野順彦(さわのゆきひこ)立教大学大学院法務研究科教授・弁護士

判   旨

新築のオフィスビルの賃借人は、賃貸借の終了に伴い、賃貸借契約に付された原状回復条項に基づき、賃貸当時の状態にまで原状に回復して変換すべき義務がある。

 

事案の概要

 

Xが所有する本件建物(オフィスビル)は平成53月竣工と同時にYに賃貸されたが、Yは平成101015Xに対し本件賃貸借の解約予告の通知をし、翌平成11114日本件賃貸借は終了した。なお、鍵は平成101212日ころYからXに返還されている。

 YXに対し、預託保証金から約定の償却、未払賃料等のほか、Yが自ら認める原状回復費用(125万円)を控除した残金の返還を請求したところ、Xは償却費、未払賃料等及び原状回復費用の合計額は預託保証金の残額を大幅に上回るとして、Yに対し上記不足額及びXが原状回復に要した期間に対応する約定損害金の支払を請求した事案の控訴審判決である。

 

 

H5.3         本件建物竣工

           XY間で本件建物賃貸借契約締結

H10.10.15      YXに対し本件賃貸借契約の解約予告

H10.10.27ころ     XYに対し原状回復費用見積書交付(690万円)

H10.11.2ころ     YXに対し原状回復費用見積書交付(125万円)

H10.12.12ころ     XYから鍵の返還を受ける

H11.1.14       本件賃貸借終了

H11.1.152.4     Xにおいて原状回復工事施工

H11.4         YXに対し、保証金差額返還請求の本訴提起

           XYに対し、損害賠償等請求の反訴提起

 

 

裁判所の判断

本件賃貸借契約書によれば、本件原状回復条項は、「本契約が終了する時は、賃借人は賃貸借期間終了までに、賃借人が賃貸人の同意を得て備え付けた造作、模様替え等を本契約締結時の原状に回復しなければならない」、「原状回復のための費用の支払は、保証金償却とは別途の負担とする」というものであり、Yはオフィスビルである本件建物を新築の状態で借り受けたのであるから本件原状回復条項に基づき、通常の使用による損耗、汚損をも除去し、本件建物を賃貸当時の状態にまで原状回復して返還する義務がある。また、原状回復の費用は保証金償却とは別途の負担とするとの規定もなされていることから、通常の使用によって生じる損耗、汚損の回復は保証金償却費によって賄うべきである旨のYの主張も採用できない。

本件原状回復費用としては、Yが本件建物に設置した電気設備の除去費用、空調設備のオーバーホール工事費用、壁面のクロス及び床面のタイルカーペットの全面的張替え、天応の穴埋めと塗替え等の費用についてYが負担すべきである。

 

コメント

本判決は、判旨にあるとおり新築オフィスビルの賃貸借における原状回復義務は賃貸借契約締結時の原状に回復する必要があるとしているが、それは本件原状回復条項及び造作等に関する特約に照らして、造作その他の撤去にとどまらず、特約がなされている限りクロスの張替え、床板・照明器具などの取替え、天応の塗替えならびに通常の使用に伴い生じた損耗についても原状回復義務を負うとしており、このような特約はオフィスビルの賃貸借においては経済的合理性があると判示する。

本件事案についてみれば、本件賃借人は出版会社であって印刷機器を設置するなどして印刷工場としても使用されていたことが窺われる。本判決の事実認定によれば、賃借人が本件建物を退去した時の状況は、次のとおりであった。すなわち、「全ての階の壁面のクロスには、機械の熱で焼けたことなどによる濃淡や黄ばみのほか、黒い染みとなっている所が多く、全体的に汚れていて、これを洗浄で落とすことは困難であり、部分的な張替えでは対処できない状態にあり、特に電算機室として使用されていた4階部分ついてはY側で使用中に部分的に張替えを行ったため、色調がばらばらになっており、全面的な張替えを必要とした。さらに、天井にもパーティションの組替えによるボルト跡の多数の穴が空いていたほか、タバコのやになどによる汚れがあった。空調機内部の汚れもひどく、全面的な掃除をしないとエアコンとしての機能が失われてしまうおそれがあった。」のであって、本判決のような原状回復義務が認められるのは当然といえる。しかし、これを一般化し、特約がない場合であっても、新築の状態に原状回復義務が認められるわけでなく、また、オフィスビルの場合に通常の使用による損耗についても原状回復義務が認められるわけではない。なお、本判決は本件賃貸借においては、「本契約締結時の原状に回復」する必要があるといっているが、建物の躯体、基本構造部分について新築時の状態にまで回復することを要求しているわけではないことは当然である。

 

参考判例

(修繕の程度を超えた増改築と原状回復義務)

○本件増改築は修繕の程度を超えているが、家屋の使用目的や構造を変えるものではなく、むしろ便利に改造したものであって、これを原状に回復することを強いることにすれば、本件家屋を使用上の価値の劣った旧状に復せしめることになり、しかもそのために相当な費用を投じなければならず、賃貸人、賃借人のいずれにとっても失うことがあるだけで得ることがないことなどを総合すれば、本件原状回復請求は何ら実益のない不当な要求というべきである(東京地判昭25.7.10下民1.71071、判夕6.43)。

 

(原状回復の意味)

○本件原状回復特約の内容は、字義どおり賃貸借契約時の原状に回復することでなく、賃貸人との協議の結果と社会通念とにしたがって、賃貸人が新たな賃貸借契約を締結するについて障害がないようにすることを要し、かつ、そうすることをもって足りる(東京高判昭60.7.25東高民報36.67.132)

 

(もと倉庫を食料品販売店舗に改造した場合の原状回復義務)

○もと倉庫であった建物を賃借人が借り受けて食料品等を販売する店舗として使用していた場合の原状回復の特約の趣旨は、模様替えに要した有益費償還請求権を賃借人があらかじめ放棄したものと解される(大阪高判昭63.9.14判夕683.152

 

(原状回復費用と保証金の償却)

○賃借人が通常使用することによって生じる程度の建物の損耗・汚損の原状回復費用は、解約時の保証金の償却費の中に含まれる(大阪高判平6.12.13.判時1540.52)。




 
 
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