●契約書(1)
「重要事項説明書よりも不利な内容の契約書」
重要事項説明書の記載内容よりも契約書の記載内容の方が不利な規定だったので、 管理会社に苦情を申し立てたが、「仲介業者が悪い」として相手にしてくれなかった。
泣き寝入りするしかないのか?
重要事項説明書の内容と実際の契約書の記載内容が異なる場合、 原因としては、仲介業者の調査が不十分であったことが考えられます。 しかし、契約そのものは、家主と借主との間で行うものであり、
「(重要事項説明書の内容と異なるから)重要事項説明書の内容にあわせてほしい」 と言っても認められることは少ないでしょう。 つまり、家主(代理人としての管理会社)との間では、強い主張は難しいと思います。
しかし、仲介業者には、事実と異なったことを説明したことによって発生した 損害について賠償責任を追及することが可能だと思います。 従って、仲介業者との間では泣き寝入りする必要は一切ないということです。
なお、仲介業者が誠意ある対応を見せず、単に「すみませんでした」だけで済ませるのであれば、 都道府県庁の業者監督窓口(建築指導課など)に、 書類を持って出向き、業者への指導をお願いしてはどうでしょうか?
●契約書(2)
「仲介業者の契約書と管理会社の契約書」
仲介業者で受け取った契約書内容と管理会社から送られてきた契約書の内容が異なるのだが、 どちらが正しいのか?
仲介業者が、本来、管理会社が指定する契約書を使用すべきところを、 自社で使用している契約書を間違って使用したことが原因だと思います。そうだとすれば、正しい契約書は、管理会社が用意したものとなります。
そこで、万一、管理会社が用意した契約書の内容と仲介業者で受け取った契約書の内容が大幅に異なり、 仲介業者で受け取った契約内容だったから契約したという場合には、
仲介業者に対して、損害賠償を行うことが可能となるでしょう。
●契約書(3)
「契約更新ごとの家賃値上げの条項は無効か」
契約書の内容を見ていたら、「契約更新ごとに家賃を5%値上げする」となっていた。そういう契約内容は不当だと思うのだが、削除を求めるべきか、それとも、法的に認められないと思うので無視して契約したほうがよいのか?
「契約更新ごとに家賃を5%値上げする」という合理的な根拠はあるのでしょうか?万が一、そういう根拠があれば、「不当な契約」とは言えません。しかし、ふつうは、「更新ごとの自動値上げ」を行うような合理的な根拠はないと思います。そういう場合には、消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する条項は無効である」に該当しますので、契約内容そのものが無効となります。できれば、最初から削除してもらうほうがよいと思いますが、あまり強い交渉を行うと、契約そのものができなくなる(家主が契約を拒否する)可能性もあります。入居を優先したいのであれば、あまりに強い要求は避けたほうがよいでしょうが、その代わり、契約更新時には交渉を行う必要があります。どちらがよいとは一概に言えませんが、最終的には、借主の判断次第となります。
●契約書(4)
「家賃不払いによる退去の条項は無効か」
契約書の内容を見ていたら、「家賃の支払いを1日でも遅延した場合には、 即刻退去するものとする」となっていた。そういう契約内容は不当だと思うのだが、
削除を求めるべきか、それとも、法的に認められないと思うので無視して契約したほうがよいのか?
このような規定は、単なる脅しに過ぎません。法的にも認められていません。家主としては、家賃の滞納を恐れるあまり、 このような規定を設けているのでしょうが、認められませんので安心してください。
家主として契約を解除するには、借主との間で信頼関係がなくなるような事態が前提となります。 家賃の滞納で言えば、判例では、6ヶ月程度以上の滞納があれば、
「信頼関係がなくなった」とみなされているようです。 いずれにしても、契約時点で削除を求める方法もありますが、 強い要求をすれば、契約そのものを拒否される可能性もありますので、
あまり神経質にならず、無視して契約してもよいと思います
●契約書(5)
「貸主の都合による退去の条項は無効か」
契約書の内容を見ていたら、「家主が物件を必要とする場合には、 即刻退去するものとする」となっていた。そういう契約内容は不当だと思うのだが、
削除を求めるべきか、それとも、法的に認められないと思うので無視して契約したほうがよいのか?
家主からの退去が認められるケースは、非常に限定されています。 家主が、単に、「物件を必要とする」だけで、退去が認められることはありませんので、
このような規定は、借地借家法の強行規定に違反するものであり、無効となります。 契約時に削除を求めてもよいですが、あまりに強く要求すると、 家主から契約そのものを拒否されてしまう可能性もあります。
そこで、あまり神経質にならずに、そのまま契約してもよいと思います。 そして、万が一、家主から退去を求められた場合に、 「契約内容の無効」を主張すればよいでしょう。
●契約書(6)
「借主に不利な契約内容」
契約書の内容が借主に一方的に不利なので拒否したいのだが‥
契約というのは、本来、対等平等な2者の間において、 一方からの「申し込み」と他方の「承諾」によって成立します。 これは、「諾成契約」と呼ばれており、口頭だけで成立します。
たとえば、何かを買いにお店に行った場合を想定して考えればよくわかると思い ます。 「これをください(申し込み)」、お店「ありがとうございます(承諾)」。
日本の社会自体も、対等平等を前提としていますから、契約に関しても、 「契約自由の原則」(私的自治の原則)というものがあり、人身売買や殺人依頼
など、 公序良俗に反するような契約は無効ですが、 それ以外は、原則として、自由に契約することができるのです (なお、建物の賃貸借契約では借地借家法の強行規定に反する契約は無効であり
、 例文解釈と言って、契約書、契約約款中の定型的文言の解釈で、 文言通りに適用すると不当な結果となる場合に、その不当性を回避するために、 その文言を「単なる例文である」として、その有効性を否定する契約解釈の手法
などが 適用されるときも無効となります)。 「自由に契約する」というのは、契約内容も自由ですし、誰と契約しようが、 逆に契約を拒否すること自体も自由なのです。
さらに、契約の形式も自由なので、文書でも口頭でもかまわないのです。 民法自体も、「契約自由の原則」を前提としつつ、 契約内容を取り決めなかった場合のルールを規定しているのです。
賃貸借契約も、本来は、対等平等な私人間で契約すべきです。 しかし、実際には、対等平等どころではなく、立場の強い家主が一方的に定めた 契約内容を、
立場の弱い借主が承諾するかどうかにかかっているわけです。 ということは、単純に考えれば、借主に一方的に不利な規定を拒否したくても、 家主が認めてくれなければ、結局は契約そのものが成立しないのです。
つまり、家主には、「あなたとは契約しない」という権利があるわけで、 家主に「契約せよ」と請求すること自体できないわけです。 そういう状況を背景として、民法だけでは立場の弱い借主が一方的に不利である
として、 借地借家法(旧借地法、旧借家法)が誕生しました。 そのため、借地借家法では、「強行規定」というものを設け、 一部の規定については、「契約書にどのような記載があっても、
借地借家法の強行規定に反するもので、 借主に一方的に不利な条項は無効である」としているのです。 また、2001年4月には、消費者契約法というものもできました。
この法律では、「消費者の利益を一方的に奪う契約条項は無効である」としてお り、 賃貸借契約書にどのように記載されていても、消費者契約法に違反するとされた
場合には、 借主は従う必要がなく、裁判しても勝訴する可能性が非常に高くなってきていま す。 相談内容を見ると、「借主に一方的に不利‥」ということですが、
具体的な記載条項を確認する必要があります。 その条項が、借地借家法の強行規定や消費者契約法に違反すると認められる場合 には、 そのまま契約しても、条項としては認められませんが、
できれば、トラブル予防のために、家主に「法律上認められないと思うので、 削除してもらえないか?」申し出ることもできます。 ただし、言い方には気をつけないと、家主が契約そのものを拒否してくる可能性
があります。 一方、上記の規定・法律に違反していない条項については、借主としては、 認めなければ、契約できない可能性が強くなります。 一般的な傾向として、空室が出てもすぐに借主が見つかるような条件のよい物件
の家主は強気ですので、 借主から「不利な条項を削除してくれ」と申し出ても、「無理に契約してもらわなくて結構。 他にいくらでも借りたいという人がいるから」という答えが帰ってくるのがオチ
でしょう。 従って、「借主に一方的に不利な条項がある」場合、「不利を承知でも契約した い」のか、 「納得できなければ契約しない」のかをはっきりさせた上で、
家主(仲介業者)との交渉に臨まなければなりません。
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