(東京地方裁判所平成8年8月22日判決・判例タイムズ933 号155 頁)
《事件のあらまし》
X会社(この事件の原告。賃貸人)とY会社(この事件の被告。賃借人)は、平成5年4月、本件ビルの4階及び6階について、次のような条件で、賃貸借契約を締結した
(以下これを「第1契約」という)。
1 期 間 平成5年5月1日から4年間
2 賃料月額 平成5年5月から9月まで132 万円余、同年10月から平成7年4月まで278 万円余、同年5月から平成9年4月まで311 万円余
3 共益費月額 平成5年5月から6月まで17万円余、7月から34万円余
4 保 証 金 3700万円。契約時に500 万円を支払い、残額は平成5年5月から同9年1月までの分割払いとする。
5 違 約 金 Y会社が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う。
Y会社が賃料・共益費の支払を遅滞したため、平成6年2月、X会社とY会社とは、6階部分について合意解約し、4階のみの契約となったことから契約内容を変更し(省略)、期間満了前の解約による違約金を6321万円余として、その支払時期を平成12年3月末日、ただし本件ビルのいずれかの部分の賃貸借契約が解約又は解除された場合は直ちに支払う旨を合意した。
平成6年12月、X会社とY会社とは、変更された第1契約を合意解約し、本件ビルの7階及び9階について、次のような条件で、賃貸借契約を締結した(以下これを「第2契約」という)。
1 期 間 平成12年3月まで
2 賃料月額 平成7年3月まで240 万円余、以降162 万円余
3 共益費月額 29万円余
4 保 証 金 1850万円。契約時に1106万円を支払い、残額は、平成10年7月までの分割払い。
5 違 約 金 期間満了前に解約又は解除された場合は、Y会社はX会社に対し750 万円を支払う。
ところが、Y会社は、第2契約による賃料及び共益費の支払を遅滞したため、平成7年10月、X会社は賃貸借契約を解除し、Y会社は本件ビルを明渡した。
X会社は、違約金(第1契約による6321万円余、第2契約による750 万円)及び未払賃料、損害金等(合計9184万円余)の支払を請求して、Y会社及び連帯保証人であるY会社の代表取締役を被告として、本訴を提起した。
Y会社側は、本件のような違約金条項は、賃借人の解除権を不当に制約し、賃貸人に過剰な利益を与えるものであるから、公序良俗に反し無効であり、このような多額の違約金を請求することは権利の濫用である、として争った。
X会社は、Y会社には資金的余裕がなく、保証金を分割で支払う旨の申入れがあったため、期間内の解約をしないことを前提としてこれを承諾し、期間内の賃料収入を確保するために違約金条項を定めたものである、等と反論した。
《裁判所の判断》
(第1契約による違約金について)
第1契約による違約金は、Y会社が6階部分を平成6年2月に解約したことによるものであり、これを実際に明渡した日の翌日である同年3月5日から契約期間である平成9年4月30日までの賃料及び共益費相当額が請求されており、Y会社が6階を使用したのは約10月であるが、違約金として請求されている賃料等の相当額は約3年2月分である。
X会社は、契約期間内に解約された場合、次の賃借人を確保するには相当の期間を要すると主張しているが、Y会社が明渡した各階について、次の賃借人を確保するに要した期間は、実際には数か月程度であり、1年以上の期間を要したことはない。
以上からすると、解約の原因がY会社にあり、本件の契約が、保証金の分割払い等Y会社に有利な内容になっている部分があることを考慮しても〈賃料等の約3年2月分の違約金が請求できる条項は、賃借人に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的には認めることができず、Y会社が6階を明渡した日の翌日から1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する(第1契約の違約金は、1876万円余に限り認容)。
(第2契約による違約金について)
第2契約による違約金は、賃料の3月分程度の金額であり、第2契約が賃料不払で解除されたものであり、保証金の分割払いが認められていたこと等を考慮すると、第2契約による違約金の約定は、公序良俗に反するものとは言えないし、これを請求することが権利の濫用であるとも言えない。
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