■建物賃貸借契約が中途解約された場合、保証金の償却は、約束の償却額を実際の賃貸借期間と残存期間とで按分し、実際の賃貸借期間に相当する額のみ認められるとされた事案
(東京地裁平成4年7月23日判決。判例時報1459号136頁)
(事案)
X(借家人)とY(家主)との間の建物賃貸借は、契約期間3年、賃料22万円、保証金220万円で、3年毎に賃料の3か月分を償却するものだった。 XとYは、契約期間の途中で本件契約を合意解除したが、償却される保証金の範囲が問題になったXは償却の範囲は、契約期間に対する実際の賃貸借期間の割合分に限られると主張。 Yは、@実際の賃貸借期間にかかわらず、約定の償却全額を償却するのが不動産賃貸借の実務であり、A中途解約の場合も全額を償却する旨の合意があったと主張し、保証金の返還に応じなかった。 (判決)
判決は、第1に、保証金の性質について、「これを限時解約金(借主が賃貸借期間の定めに違背して早期に明渡すような場合において借主に支払わせるべき制裁金)とするなどの別段の特約がない限り、いわゆる敷金と同一の性質を有するものと解するのが相当であって、貸主は、賃貸借契約が終了して目的物の返還を受けた時は、これを借主に返還する義務を負う」と判示した。 そして、第2は、保証金の償却について、「貸主が預託を受けた保証金の一定額を償却費名下に取得ものとされている場合のいわゆる償却費相当分は、いわゆる権利金ないし建物又は附属備品等の損耗その他の価値減に対する保証としてのせいしつをゆする」と、その性質について証明した。 続けて、第3に、償却の範囲について、「この場合において、賃貸契約の存続期間及び保証金の償却期間の定めが会って、その途中において賃貸借契約が終了したときには、貸主が、特段の合意がない限り、約定にかかる償却費を賃貸借期間と残存期間とに按分比して、残存分に相当する償却費を借主に返還すべき者と解する」旨判示した。 そして、第4に、Yが主張した@中途解約の場合でも約定の償却費全額を取得するという不動産賃貸の実務の存在については、「右のような取扱いが不動産の賃貸契約における一般的な慣行であるということはできず」としてこれを否定し、A中途解約の場合でも約定の償却費全額を取得するという合意の存在についても否定して、第三に従って保証金を返還するようYに命じた。
(寸評)
中途解約の場合の保証金の償却の範囲については、本件のように借家人と家主との間で対立することが多い.本判決は、保証金及び償却費の性質を明らかにした上で、保証金の償却について実際の賃貸借期間と残存期間に按分すべきだとし借家人の主張を全面的に認めたものである。同じケースで悩む借家人にとって大いに参考になる判決と思われる。